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 ポカリを買って、とりとめないおしゃべりをしながら、サッカー部が練習をするグランドへみんなで向かった。
 漢字の「王」のかたちになった校舎を抜けると、広いグランドに出る。みっつめの校舎の手前までやってきたとき、向かいから派手な赤髪をした長身の男の子が歩いてくるのがみえた。背中にはギターの黒いソフトケースを担いでいる。彼は同じクラスの、

「北川くんだっ」

 わたしが彼の姿を認めると同時、もちろん前を歩く女の子たちも彼を見つけ、走り寄っていった。北川くんはそんな彼女らに片手をあげ、爽やかに笑ってみせる。
 軽音部の男の子だ。短い髪を燃えるような真っ赤に染め、ワックスで立てている。男女分け隔てなく愛想がいい人気者、きわめつけが女の子も顔負けの甘いマスク。モテないわけがない。もっとも近しいところでいえば、めぐちゃんもまた北川フリークの一人である。

「どこ行くの?」
「杉村さんがねー、彼氏の練習するとこ見たいっていうから」え?「みんなで付き添いなのー」ええ?

 北川くん(近くでみたらやっぱりきれいな顔だとわたしは思った)はその言葉でようやく所在なさげに佇むわたしの存在に気が付いたようで、くしゃっと顔をくずし、「めずらしーね」と笑った。きれいな顔。わたしは赤くなってうつむいた。

「北川くん、どっかに行くのー?」
「や、今日はメンバー誰も来ねーからもう帰ろっかと思って」軽音部、この上なんだ。渡り廊下の天井を指し、北川くんは言った。
「そうなんだー」
「ひどいんだよね、みんな彼女優先してさー」頬を膨らませたり、腕を組んでみせたり。いちいちのしぐさが派手で、華やかだ。
「北川くんは彼女つくらないの?」
「ん。今は音楽に集中してたいっていうか。彼女と遊ぶよりギター弾いてるほうがたのしーし」
「えー? つくろーよ彼女ー」

 女子たちはきゃいきゃいと声を弾ませ、北川くんをとり囲む。今帰ると言ったはずのその北川くんは、なぜか体の方向を180度ぐるりと変え、わたしたちと同じくグランド方面へと歩みを進めている。どうみても、女好きのちゃらちゃらしたひとにしか見えない。
 渡り廊下の終わり、最後の校舎を抜けると、とたんに目に強い日差しが飛びこんできた。目を細め、右手を額にあててひさしをつくる。グランドにはサッカー部の他にも野球部やラグビー部、陸上部といった人たちが汗をながし、それぞれの思いを目標を夢をその胸に抱き、練習に励んでいた。前向きな活気に満ちたおおきなおおきなエネルギー。なんだか胸やけするような心持になって、もうすでに帰りたいわたしだった。

「杉村さんって」

 顔をあげると、すぐ隣に北川くんが立っていた。たちまち緊張が全身を支配する。

「え、な、何」
「はは、なんかビビってる? オレクラスメートなのに」北川くんは苦笑してみせ、こちらにぐっと顔を近づけた。
「や、あの、初めて喋りかけられたから」ち、近い。顔をそらし、なんとかそれだけ答える。
「ホントはもっといろいろ絡みたいんだけどねー。誰かさんが許してくんねーし」
「絡……? え?」
「おなじギター弾き同士、仲良くしてーなと思って」